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一日一善

おばあちゃんが席で放心状態になっている。
おばあちゃんは近所におうちがあるのだが、一人暮らしなので、ご家族が心配してこれまた近所の老健ホームに入居しているのだ。だが、おばあちゃんはホームにいるのがいやなのだ、と言う。
「まー年寄りばっかだで、ツマラン!」と言って毎日出歩いている。
「みんな年寄りだもんで、陰気くさい話ばーっかし。私、おもしろくないんだわ」と言う。そういうおばあちゃんも、もう80近い。
よく通りでタクシーを拾おうとしている姿を見かける。タクシーで三越に行くのが好きらしい。
いつもそんな元気なおばあちゃんなのに。
「どうしたんですか?」059が大声で聞く。
「はぁ?まータクシーがつかまらんかったで、歩いてたら、ここまで帰ってきちゃったわ」
「どこからですかー?」
「タクシーが、まー来んのだわー。仕方ないで歩いてきたわ〜」
「……おばあちゃん、どこから歩いてきたのー?」
「はぁ?まーねー、タクシーもなかなか来んのだわー。まー疲れたわーー」
「……どこ行って来たのー?」
「………」無視。
「おばあちゃーん!三越から歩いて来たのー?!」
「はー?……まあ三越よりは近いわ」
……もういい。追求すまい。聞いてもわからん。

どこからかはわからんが、とにかく歩き疲れてへろへろのおばあちゃん。いつものごとくオーダーも一仕事だったが、それより手に持っているコンビニ袋が心配だ。
「おばあちゃん、アイス入ってるよ?こんなのんびりご飯食べてたら溶けちゃうよ」
「………」
魂が抜けたようになっている。こんな腑抜けなおばあちゃんを見るのは初めてだ。
ホームのご飯はいつも同じのばっかりでイヤらしく、ウチでゴハンを食べた時は、ついでにお惣菜をテイクアウトしてくれるのだが、どう見てもコンビニ袋の中にお弁当が入っているのだ。だいじょーぶか?ダレが食うのだ?今おばあちゃんメシ食ったばっかだぞ。
ちなみにホームでも晩メシ出るんだぞ。
私の心配をよそにおばあちゃんは059にテイクアウトを指示している。
が、なかなか帰ろうとしない。
「疲れたわぁ〜〜〜………」
とにかく疲れたを連呼している。
うーむ。どーせ買い物に行かなくちゃいけないしな。ヨシ。

おばあちゃん、送って行こか?
「……もう歩けんわ…」
車で送るよ。買い物行くから。
私が言った途端、おばあちゃんの顔がパァ〜〜〜〜!ッと明るくなった。
「ありがと、ありがと!車代出すから!」
いらんて、そんなん。

だがおばあちゃんのナビはなかなか高度だった。
「その電信棒のとこで」
電柱、いっぱいある……。ここでいいの?
「その先」
はい、ここ?
「もっと先」
……どこやねん!あ、ここ?ここおうち?
「ここを左に入って……」
うちとちがうんかい。……まあいい。
「あ、右に行ける?」
え?右なの?こっち?左じゃないの?
「左に入ってから、右」
だーーーーー!曲がってから言えや!

大騒ぎのあとようやくおばあちゃん宅に到着。一休みしてからホームに帰るらしい。
拝まんばかりに感謝してくれるおばあちゃんに手を振って、買い物に向かう私なのだったが、路地からちょっと広い道に出る寸前、何か視界の端に気になるモノが……。
道路脇にある、アレは………。

車を停め、サッと降りてサッと拾ってサッと乗り込み、ブーッと発進。
折り畳んだ千円札だった。
なんとゆー動体視力。

もしかして神様からのごほうび?
買い物のついでに送っただけなのに、おばあちゃんに感謝されるわ、英世さんはやってくるわ、あー幸せ。



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